逆流性食道炎の方のための歯科治療:胃酸から「一生モノの歯」を守る
2026/02/25
神保町野本歯科医院の院長、野本です。
当院には、真面目に歯を磨いているのに「歯がどんどん薄くなっている」「詰め物がすぐに外れる」というお悩みを抱えた患者さまが来院されます。
お口を拝見すると、そこには虫歯とは明らかに違う、「胃酸によって溶かされた歯」の姿があることが少なくありません。
逆流性食道炎は内科の病気だと思われがちですが、実はお口の健康、ひいては人生の質(QOL)を大きく左右する「歯科の重要課題」でもあります。
逆流性食道炎が引き起こす「お口の4大トラブル」
1. 歯の致命傷となる「酸蝕症(さんしょくしょう)」
虫歯は「細菌が作る酸」によって歯が溶けますが、酸蝕症は「胃酸そのもの」によって歯が溶ける現象です。
自分では気が付きにくい
胃酸は喉から上がってくるため、特に「上の前歯の裏側」や「奥歯の噛み合わせの溝」が真っ先に被害を受けます。
鏡で見える前側が綺麗でも、裏側はエナメル質が消失してスカスカになっていることがよくあります。
「ファセット(小さなくぼみ)」の出現
奥歯の噛み合わせのポコっとした山(咬頭)が溶けて、平らになったり、お皿のように凹んだりします。
これが進行すると、噛み合わせのバランスが崩れ、顔の輪郭や顎関節にまで影響を及ぼします。
2. 重症化しやすい「知覚過敏」と「二次虫歯」
胃酸によってエナメル質(歯のバリア)が薄くなると、歯の神経へと続く「象牙細管」という細い管がむき出しになります。
「キーン」という激痛
通常の知覚過敏よりも範囲が広く、複数の歯が一斉にしみ始めます。
冷たい水だけでなく、歯ブラシが当たるだけの刺激でも飛び上がるような痛みを感じるようになります。
虫歯のスピード加速
酸によって歯の表面が常に「脱灰(柔らかい状態)」になっているため、わずかな磨き残しがあっても、通常の数倍の速さで虫歯が進行します。
特に、詰め物と歯の境目が酸で溶かされ、「詰め物の下がいつの間にか巨大な空洞になる」という二次虫歯のリスクが極めて高くなります。
3. 呑気症(どんきしょう)による「歯の崩壊」の加速
逆流性食道炎の方は、喉の違和感(ヒステリー球など)や胸焼けを紛らわせようとして、無意識に唾液と一緒に空気を飲み込む「呑気症」を伴うことが多々あります。
酸 + 力 = 歯の消失
空気を飲み込む際、人は必ず歯を食いしばります。
「胃酸で柔らかくなった歯」に「食いしばりの強力な力」が加わると、歯はバターをナイフで削るように、恐ろしいスピードで摩耗していきます。
歯が短くなる
「最近、歯が短くなって老けて見えるようになった」と感じる場合、酸蝕と摩耗のダブルパンチで歯の長さが物理的に減っている可能性があります。
4. 唾液の変質による「口臭」と「味覚の不快感」
お口の中は通常、唾液の力で「中性」に保たれています。
しかし、逆流が頻繁に起こると唾液の自浄作用が追いつかなくなります。
独特の口臭(酸性臭)
胃酸に含まれる未消化物の臭いに加え、酸性環境を好む悪玉菌が繁殖しやすくなります。
これにより、歯磨きをしても消えない、独特の酸っぱい、あるいは生臭い口臭が発生します。
持続する「酸っぱい・苦い」味
舌の表面にある味を感じる細胞(味蕾)が胃酸による刺激でダメージを受けたり、常に酸にさらされることで、何を食べても「酸っぱい」「金属のような味がする」といった味覚異常(自発性異常味覚)を招きます。
院長からのアドバイス
逆流性食道炎によるお口のトラブルの恐ろしい点は、「痛みが出るまで自覚症状がほとんどない」ことです。
知覚過敏を感じたときには、すでにエナメル質の大部分が失われていることも少なくありません。
特に、「朝起きたときに口の中が苦い」「炭酸飲料やフルーツが異常にしみる」という方は、寝ている間に胃酸が逆流し、歯を攻撃しているサインです。
当院では、マイクロスコープを使って「歯の裏側のわずかな溶解」も見逃さずチェックします。
マイクロスコープを使用した酸蝕症診断
酸蝕症の恐ろしさは、虫歯のように穴が開くのではなく、歯の表面全体が均一に、かつ裏側から薄くなっていく、という点にあります。
歯の先端が透けていないか、エナメル質の光沢が消失して「すりガラス状」になっていないか、胃酸の通り道に沿った特有の摩耗がないかを細部まで確認します。
高精度カメラでの撮影と記録
マイクロスコープ付属の高画質カメラで、普段見ることのできない「歯の裏側」や「奥歯の溝」を撮影します。
撮影した画像は大画面モニターで患者さまご自身にも確認していただきます。
「自分の歯がどう溶けているのか」を視覚的に理解することで、内科治療や生活習慣改善へのモチベーションにもつながります。
摩耗・溶解レベルのステージング
診断結果に基づき、酸蝕症が「初期(エナメル質の表面のみ)」「中期(象牙質が露出)」「末期(噛み合わせが崩壊)」のどの段階にあるかを判定します。
逆流性食道炎の方への専門的歯科アプローチ
「酸に負けない」歯の化学的強化(再石灰化療法)
胃酸でエナメル質が薄くなっている場合、削って被せる前に、まずは「歯の質そのものを強化」することが最優先です。
高濃度フッ素とミネラルパック
通常のクリーニングに加え、歯の再石灰化(修復)を促す「CPP-ACP(リカルデント)」や「高濃度フッ素(1450ppm)」を用いたプロフェッショナルケアを行い、酸に溶けにくい強固な歯面を作ります。
pHコントロールの指導
お口の中が酸性から中性に戻る「緩衝能(かんしょうのう)」を助けるため、重曹水でのうがいや、唾液の分泌を促すガム療法の具体的なプログラムを策定します。
歯を削らない「保護コーティング」(ダイレクトボンディング)
胃酸によってエナメル質が消失し、象牙質が露出すると、歯は一気に崩壊のリスクが高まります。
ここでは「削る」のではなく「足す」治療を行います。
エナメル質の代わりを形成
露出した敏感な象牙質の上に、酸の影響を受けにくく、かつ天然歯に近い摩耗性を持つ「高品質コンポジットレジン」を接着させ、バリア機能を復活させます。
マイクロスコープによる精密接着
わずかな隙間があるとそこから二次虫歯やさらなる酸蝕が進むため、マイクロスコープ下で、歯と材料を完全に一体化させる超精密な接着技術を用います。
就寝時の「化学的・物理的ダブルガード」
逆流性食道炎のダメージが最大になるのは、唾液が減り、横になることで逆流が起きやすい「就寝中」です。
当院では、ナイトガード(マウスピース)の使用をお勧めしております。
物理的ガード
酸で柔らかくなった歯が、睡眠中の食いしばりで削れるのを防ぎます。
化学的ガード
マウスピースの中に、中和剤やフッ素ジェルを保持させることで、寝ている間も歯を胃酸から守り続ける「ドラッグデリバリーシステム」としての役割を持たせます。
治療の「タイミング」と「姿勢」への配慮
逆流性食道炎の方は、歯科医院の「椅子」そのものが苦痛やリスクになることがあります。
水平位にしない診療
診療台を完全に水平に倒すと、胃酸の逆流を誘発し、誤嚥(ごえん)や体調不良を招く恐れがあります。
当院ではご希望により、頭を少し高く保った「セミリクライニング状態」で、苦しくない姿勢のまま精密な治療を行います。
診療時間の調整
食後すぐの時間は逆流のリスクが高まるため、逆流が起きにくい時間帯を患者さまと相談して予約を調整します。
内科との連携による「根本治療へのアプローチ」
歯科での対処療法と同時に、私たちは「なぜ逆流が起きているのか」という内科的な視点も大切にしています。
お薬のチェック
服用中の胃酸を抑える薬(PPIなど)が、副反応としてドライマウスを引き起こし、それが原因でさらに酸蝕が進むという悪循環がないかを確認します。
紹介状の発行
お口の溶け方から逆流性食道炎の重症化が疑われる場合、専門の内科・消化器内科へ詳細な情報提供を行い、根本的な胃の治療を促します。
院長からのアドバイス
「胃が悪いから、歯がボロボロになるのは仕方ない」と諦める必要はありません。
歯科の専門的なアプローチを組み合わせることで、たとえ逆流性食道炎が続いていたとしても、「歯を溶かさない、痛ませない」状態を維持することは十分に可能です。
あなたの歯は、適切な保護があれば胃酸に打ち勝つことができます。
まずは、今ある歯をどう守り抜くか、私たちと一緒に戦略を立てましょう。
神保町野本歯科医院:https://nomodent5454.com/
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-19-1 リーガルタワー神保町1F
電話:03-5276-5454
電車でお越しの方:
都営地下鉄 神保町駅 徒歩1分

