楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために

      2026/02/21

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

神保町野本歯科医院の院長、野本です。

当院には、プロ・アマ問わず多くの音楽家の方々が来院されます。

「詰め物の形が変わってから高音が出にくくなった」
「矯正をしたいけれど、アンブシュアが変わるのが怖い」

といった、切実なご相談をいただきます。

音楽家の治療において最も大切なのは、「歯科医学的な正解」が「演奏上の正解」とは限らないという点です。
私たちは、患者さまが大切にされている「音」を守るために、通常の歯科治療とは異なる視点でのアプローチを行っています。

 

音楽と歯科に関する問題

楽器演奏者にとって、お口のトラブルは単なる「痛み」の問題ではなく、「表現の自由」や「キャリアの継続」を脅かす深刻な事態です。
ここでは、音楽家が直面する歯科問題を、「楽器特有の物理的負荷」と「神経・全身的な不調」の2つの側面から、より専門的に詳しく解説します。

 

1. 管楽器奏者:アンブシュアの崩壊と歯の移動

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

管楽器を吹く際に作る口の形(アンブシュア)は、ミリ単位の筋バランスで成立しています。


金管楽器(トランペット、ホルン等)と「前歯の切縁」
マウスピースを唇に強く押し付けるため、前歯が少しでも「捻転(ねじれ)」ていたり「挺出(伸びている)」していると、特定の部位に圧力が集中します。
これにより唇の裏側に潰瘍(口内炎)ができたり、重篤な場合は前歯の神経が死んでしまう(失活)、あるいは歯が内側に倒れ込むといったトラブルが起きます。

木管楽器(サックス、クラリネット等)と「下顎の負担」
シングルリード楽器は、下の歯に下唇を巻き込んでリードを支えます。
このとき、下の歯の先端(切縁)が鋭利だと下唇に慢性的な傷を作ります。
また、楽器を支える親指からの力が歯に伝わり、特定の歯だけが外側に押し出される「歯の移動」が起き、昨日まで吹けていた音程が突然取れなくなることがあります。

 

2. 擦弦楽器奏者:バイオリン・ビオラ特有の「顎関節症」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

バイオリン奏者は、楽器を安定させるために顎(下顎骨)と鎖骨の間で楽器を挟み込み、固定します。
常に顔を左に傾け、下顎を右前方に突き出すような不自然な姿勢が続きます。
これにより、右側の顎関節だけに過度な圧迫が加わり、関節円板のズレ(クリック音や開口障害)や、片側だけの噛み合わせの摩耗を引き起こします。

また、難しいパッセージや緊張する場面で無意識に顎を強く締め付けると、その力が首・肩の筋肉まで伝播し、指先の繊細な動き(ボウリングやビブラート)を妨げる原因になります。

 

3. 局所性ジストニア:脳と筋肉の「混線」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

音楽家にとって最も深刻な疾患の一つが、演奏時のみに起こる「局所性ジストニア」です。
ジストニアは脳の神経回路の病気ですが、その発症や悪化には「お口の中の違和感」が関わっていることも多いと言われています。

例えば、新しく入れた被せ物の形がわずかに合わない(高すぎる・低すぎる)と、脳はそれを修正しようと過剰に筋肉に指令を出します。
この「過剰な微調整」が繰り返されるうちに、脳の制御システムがパニックを起こし、「唇が巻き込まれる」「震える」といった制御不能な動きとして現れるのです。

 

4. ドライマウス:演奏を止める「摩擦」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

プロの演奏家にとって、唾液はリードや粘膜の「潤滑油」です。
唾液が枯渇すると、タンギングの際に舌が上あごに張り付き、速いアーティキュレーションが不可能になります。
また、唇が歯に張り付いてしまい、柔軟なアンブシュアの変化ができなくなります。

更に、本番の極度の緊張(交感神経の優位)に加え、女性奏者の場合は更年期によるホルモンバランスの変化がドライマウスを加速させます。
「練習では吹けるのに本番でミスをする」原因の多くは、この口腔乾燥に隠されています。

 

5. 歯周病:楽器を支える「土台の崩壊」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

一般の方にとっての歯周病は「歯が抜ける病気」ですが、演奏家にとっては「楽器の支柱がグラつく病気」です。
歯周病で歯を支える骨が溶けると、歯にわずかな動揺(ぐらつき)が生じます。
マウスピースからの圧力を歯が受け止めきれず、逃がしてしまうため、音の輪郭がボヤけ、特に高音域の鳴りが悪くなります。
痛みがないまま進行するため、気づいた時には「インプラントにしなければ楽器を支えられない」状態になっていることもあります。

しかし、インプラントは天然歯のような「クッション性(歯根膜)」がないため、以前と同じ吹き心地を取り戻すには非常に高度な調整が必要となります。

 

ジストニアが心配な方へ、「噛み合わせと神経バランスのチェック」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

「練習を重ねれば重ねるほど、思うように唇や指が動かなくなる」

そんな恐怖と隣り合わせの演奏家にとって、局所性ジストニア(音楽家ジストニア)は非常にデリケートかつ深刻な問題です。

ジストニアは脳の神経回路の病気(不随意運動)ですが、歯科の視点からは「噛み合わせという『入力信号』の狂い」が、脳のパニックを助長しているケースが多々見受けられます。
ジストニアが心配な方へ向けて、当院が行う「噛み合わせと神経バランス」のチェックポイントを詳しく解説します。

 

噛み合わせが「脳のバグ」を引き起こすメカニズム

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

脳は、お口の中の感覚に対して非常に敏感です。
脳の感覚を司る領域(ホムンクルス)において、口や舌が占める割合は手足に比べて圧倒的に大きく、わずか0.01mmの噛み合わせのズレも脳は感知します。


異常信号の入力
詰め物が合わない、歯が移動した等の理由で、特定の歯に異常な力がかかり続ける。

脳の過剰修正
脳がその違和感を回避しようと、周囲の筋肉(口輪筋や咀嚼筋)に不自然な指令を出し続ける。

回路のショート
演奏という極限の集中状態でこの過剰指令が繰り返されると、脳の制御システムが「混線(ショート)」を起こし、ジストニア特有の異常収縮が定着してしまう。

 

「噛み合わせと神経バランス」5つのチェック項目

当院では、ジストニアの兆候がある方や不安を感じている奏者に対し、以下の視点で診査を行います。

早期接触と滑走運動のチェック
特定の歯が、他の歯よりも先に当たっていないか(早期接触)、あるいは顎を動かしたときに引っかかりがないかを確認します。
演奏中に無意識に顎をずらして吹く癖がつき、それが神経を疲弊させます。

アンブシュア時の「下顎位(かがくい)」の安定性
楽器を構えたときの顎の位置が、解剖学的に無理のない位置にあるかを分析します。
実際に楽器を構えていただき、その時の筋肉の緊張度を触診します。
マウスピースの圧力が特定の歯を介して顎関節を圧迫していないかを診ます。

TCH(歯の接触癖)の有無
「演奏中以外」も上下の歯を接触させていないかを確認します。
24時間体制で脳に「噛んでいる」という信号を送り続けると、脳の感覚センターがオーバーヒートし、ジストニアを発症しやすい土壌を作ってしまいます。

左右の筋活動バランス
咬筋(頬の筋肉)や側頭筋の張りに左右差がないかを調べます。
バイオリンやビオラ奏者のように、左右非対称な構えを強いられる方は、噛み合わせの偏りが首・肩を介して脳へのストレスとなります。

補綴物(被せ物・詰め物)の適合精度
過去に入れた治療物が、演奏時の舌の動きや唇の巻き込みを物理的に阻害していないかをマイクロスコープで診察します。
一般的な歯科では「良好」とされる詰め物でも、演奏家の鋭敏な感覚にとっては「巨大な異物」として脳が拒絶している場合があります。

 

当院における演奏家のための対策と治療法

神保町野本歯科医院では、演奏家の繊細な感覚を尊重し、以下のような特別な体制で治療に臨んでいます。

 

マイクロスコープを用いた「精密修復」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

1ミリの差が音を変える世界だからこそ、当院では仕上げのチェックにマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使用します。
詰め物の「厚み」や「境目の滑らかさ」を20倍の視野で確認します。
演奏中の舌の動きを邪魔しない、天然歯と変わらない滑らかな舌触りを再現します。

 

アンブシュアを維持する「プロビジョナル・レストレーション」

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

大きな被せ物を作る際、いきなり最終的な歯を入れることはしません。
段階的に形を調整できる「精密な仮歯」を長期間使用していただきます。
実際に楽器を持参いただき、練習や本番で試しながら、コンマ数ミリ単位で形を削り込み、「最も音が出やすい形」を確定してから最終的なセラミックを作製します。

 

スプリント療法(マウスピース治療)

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

バイオリン奏者や食いしばりの強い奏者には、専用のマウスピース(スプリント)を処方します。
就寝中の食いしばりによる顎の負担を軽減し、演奏時に必要な顎の可動域を確保します。
また、ジストニア症状がある方には、噛み合わせのバランスを整えることで脳への異常信号を抑えるアプローチを検討します。

 

徹底した歯周病管理とドライマウス対策

神保町の歯医者、神保町野本歯科医院で楽器演奏者のための歯科治療:音色と演奏寿命を守るために。について解説

演奏寿命を「一生」にするためのバックアップです。
演奏活動に支障が出ないよう、計画的なクリーニングを行います。
また、ドライマウスでお悩みの方には、人工唾液の使用法や唾液腺マッサージ、必要に応じて漢方薬の処方を行い、長時間の本番でも乾燥に負けない環境を整えます。

 

院長からのメッセージ:あなたの「音」に寄り添う歯科医として

「歯科治療を受けたせいで音が変わってしまった」 そんな悲しい思いをしてほしくありません。
私たちは、あなたが日々どれほどの努力を重ねてその音を作っているかを理解し、その努力を支える裏方でありたいと考えています。

当院では、楽器の持参も大歓迎です。
実際に吹き心地を確認しながら調整を行う。
このひと手間こそが、演奏家にとっての最高の歯科治療だと信じています。
あなたの音楽人生が、より長く、より輝かしいものになるよう、お口の健康から全力でサポートさせていただきます。

 



神保町野本歯科医院:https://nomodent5454.com/

〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-19-1 リーガルタワー神保町1F
電話:03-5276-5454

電車でお越しの方:
都営地下鉄 神保町駅 徒歩1分

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