更年期女性を襲う舌の痛み。「口腔灼熱症候群」の原因と対処法

神保町野本歯科医院の院長、野本です。
「舌が火傷したようにヒリヒリする」
「口の中が常に熱い感じがする」
病院へ行っても
「見た目は綺麗ですよ」
「気のせいではありませんか?」
と言われ、誰にも理解されない痛みに一人で悩んでいませんか?
その症状は、更年期世代の女性に多く見られる「口腔灼熱症候群(こうくうしゃくねつしょうこうぐん):バーニングマウス症候群」かもしれません。
特に50代前後の女性に多く、「見た目は赤くもないし、傷もないのに、24時間ずっと舌が燃えるように痛い」という症状です。
これは決してあなたの「気のせい」でも「精神的な弱さ」でもありません。
体の中で起きている「神経の誤作動」が原因の立派な疾患です。
まずは、その症状の特徴から詳しく紐解いていきましょう。
口腔灼熱症候群(BMS)の主な症状

口腔灼熱症候群は、英語で「Burning Mouth Syndrome(バーニングマウス症候群)」と呼ばれます。
その名の通り、口の中が焼けるような痛みが最大の特徴です。
1. 痛みの感じ方

火傷のような痛み
舌の先や縁、上あごなどが、熱いお茶で火傷したときのようなヒリヒリ、ピリピリした感覚が続きます。
痛みの変化
朝起きたときは比較的軽く、夕方から夜にかけて痛みが強くなる「日内変動」が見られることが多いです。
食事中は痛くない
不思議なことに、何かを食べている間やガムを噛んでいる間は痛みが紛れる、あるいは感じないという方が非常に多いのも特徴です。
2. 随伴する異常感覚

味覚の変化
常に口の中が苦い、または金属のような味がする。
ドライマウス感
実際には唾液が出ているのに、口の中がカラカラに乾いているように感じる。
異物感
舌がざらついている、あるいは何かが張り付いているような違和感。
なぜ「更年期女性」に多いのか?3つの主要原因

口腔灼熱症候群(BMS)の原因は一つに特定できない「多因子性」のものですが、更年期の女性には以下の3つの要因が複雑に絡み合っています。
① 女性ホルモン(エストロゲン)の減少
エストロゲンは、粘膜の健康を維持し、痛みを和らげる「脳内物質」の生成に関わっています。
更年期にこのホルモンが急減すると、口の粘膜が敏感になり、通常なら感じない程度の刺激を「激痛」として脳に伝えてしまうのです。
② 神経の誤作動(神経障害性疼痛)
最新の研究では、口腔灼熱症候群(BMS)は「脳神経のトラブル」であると考えられています。
末梢神経や脳の痛みを感じるセンターが過敏になり、何も刺激がないのに「痛い!」という信号を出し続けている状態です。
③ 心理的ストレスと自律神経の乱れ
更年期は、家族環境の変化(介護、子供の自立)や自身の体調変化など、ストレスが多い時期です。
このストレスが自律神経を乱し、痛みの閾値(耐性)を下げてしまうことで、症状をより深刻化させます。
間違いやすい「似た症状」との見分け方
口腔灼熱症候群(BMS)と診断するためには、まず「他の原因」を除外する必要があります。
以下の疾患は、見た目に異常が出るため、歯科医院での視診が不可欠です。
口腔カンジダ症
カビの一種が増殖し、白い膜や赤みが出てヒリヒリします。
口腔扁平苔癬(へんぺいたいせん)
粘膜が網目状に白くなり、痛みを伴います。
鉄欠乏性貧血・亜鉛不足
栄養不足により舌の表面(舌乳頭)がツルツルになり、痛みが出ます。
ドライマウス
物理的に唾液が減り、摩擦で痛む状態。
舌痛症との違い
「舌痛症」は口腔灼熱症候群(BMS)の一部です。
痛みや熱感が「舌」だけに限定される場合を「舌痛症」と呼び、舌だけでなく上あご、唇、歯ぐきなど、お口全体に広がる場合を包括して「口腔灼熱症候群(BMS)」と呼びます。
現在では、原因不明のこれらをまとめて口腔灼熱症候群(BMS)と診断するのが一般的です。
口腔灼熱症候群の「診断基準」
口腔灼熱症候群(BMS)は、「これがあればBMS」という陽性の診断基準ではなく、「他の病気がないこと」を確認する除外診断によって確定されます。
国際的な分類(ICHD-3)などに基づくと、主に以下の条件をチェックします。
1. 痛みの特徴チェック

期間
毎日、少なくとも1日2時間以上の痛みが、3ヶ月以上続いている。
感触
粘膜の表面に、焼けるような(Burning)熱い痛みがある。
見た目
歯科医師が診察しても、粘膜に赤み、潰瘍、腫れなどの異常が全く見られない。v
2. 他の疾患の徹底的な除外(これが最重要です)
BMSと診断を下す前に、以下の「原因がはっきりしている痛み」ではないことを確認します。
口腔カンジダ症
カビの繁殖(検査で判定)。
ドライマウス
唾液の量が極端に少ないことによる摩擦。
栄養欠乏
鉄、亜鉛、ビタミンB12、葉酸などの不足(血液検査で判定)。
金属アレルギー
詰め物への反応(パッチテスト等で判定)。
糖尿病などの全身疾患
代謝異常による神経障害。
専門機関で行う治療法
口腔灼熱症候群(BMS)の治療は「痛みをゼロにする」こと以上に、「痛みをコントロールして日常生活を楽にする」ことを目標にします。
薬物療法(脳の過敏を抑える)
一般的な鎮痛剤(ロキソニン等)はほとんど効きません。
抗うつ薬・抗不安薬の微量投与
脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスを整え、痛みの信号をブロックします。
「心の病気だから」ではなく「神経の痛み止め」として使用します。
漢方薬
「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」や「加味逍遙散(かみしょうようさん)」など、口の渇きを潤したり、更年期特有のイライラを鎮める処方が有効な場合があります。
歯科的アプローチ

お口の保湿
ジェルやスプレーで粘膜を保護し、外部刺激を減らします。
噛み合わせの調整
歯の鋭い部分が舌に触れて刺激になっている場合、角を丸めるだけで楽になることがあります。
TCH(歯の接触癖)の是正
無意識に歯を合わせて舌を押し付けている癖を治すことで、舌への物理的負担を軽減します。
認知行動療法
痛みに対する不安が痛みを増幅させる悪循環を断つため、専門のカウンセリングを併用することもあります。
今日からできるセルフケア
ご自宅で意識していただきたいポイントです。
刺激物を控える
激辛料理、アルコール、刺激の強い歯磨き粉、熱すぎる飲み物は、過敏になった神経をさらに刺激します。
「痛み」から意識をそらす
BMSは、集中しているときや楽しいときには痛みが弱まります。
趣味に没頭する時間を作ることは、立派な治療の一つです。
舌を鏡で見すぎない
「何か悪い病気では?」と何度も舌を確認すると、脳がよりその場所に執着し、痛みを強化してしまいます。
院長からのメッセージ

口腔灼熱症候群に悩む患者さまの多くは、「癌ではないか」「一生このままではないか」という強い恐怖を抱えています。
しかし、適切な診断を受け、自分に合った治療法(お薬や生活習慣の改善)を見つけることで、症状は必ず和らいでいきます。
✦この疾患は専門性の高い分野のため、専門外来への診察を推奨します。
当院でも診察し、状況に応じて大学病院に紹介状を書かせていただきます。
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