神保町野本歯科医院

こんにちは。神保町駅徒歩1分の歯医者、神保町野本歯科医院です。

「昔、虫歯の治療で神経を抜いたはずの歯が、急にズキズキと痛む」
「冷たいものは感じないのに、噛むと激痛が走る…」

歯の神経（歯髄）は、痛みを感じるセンサーの役割を果たしています。
そのため、神経を抜いたはずの歯が痛むという現象は、患者さまにとって非常に不安で、不思議に感じられることでしょう。
しかし、神経がない歯でも、痛みを感じる組織は周囲に多数存在します。

最も多い原因は、歯の根の先に溜まった細菌による炎症ですが、それ以外にも歯の破折（ひび割れ）や噛み合わせの異常など、多岐にわたります。
この記事では、神経を抜いた歯（失活歯）が痛む、または違和感を覚える主な原因と、当院で提供する専門的な治療法について詳しく解説します。

 

神経のない歯が「痛み」を感じるメカニズム

歯の神経を抜いても、歯の周囲には痛みを感じる重要な組織が残っています。
これが、失活歯の痛みの発生源です。

 

主な痛みの発生源は「歯根膜（しこんまく）」
神経のない歯の根の周囲は、歯根膜というクッションのような組織で覆われ、これが歯と顎の骨（歯槽骨）をつないでいます。
歯根膜には無数の神経や血管が通っています。
このため、歯の根の先に細菌が感染して炎症が起きたり、歯を強く噛みすぎて歯根膜に過度な力がかかったりすると、歯根膜が「痛み」や「浮いたような違和感」として信号を送ります。

炎症の伝播と骨の痛み
歯の根の先に溜まった細菌感染は、歯根膜を通り越して、最終的に顎の骨（歯槽骨）まで炎症を広げます。
骨にも神経は通っているため、この炎症が痛みとして感じられます。

 

神経のない歯が痛む8つの主な原因とメカニズム

神経のない歯が痛む原因は、大きく分けて「感染症」と「物理的な問題」に分類されます。

 

感染症による痛み：根の先の病気が原因（最も多いケース）

これは失活歯の痛みの原因として最も一般的で、放置すると重篤化する可能性があります。

ケース① 根尖性歯周炎（こんせんせいししゅうえん）

過去に行った根管治療（神経を抜いた後の治療）の詰め物（根充材）の隙間から細菌が再び侵入し、歯の根の先端で炎症を起こす病気です。
細菌が増殖し、毒素を出すことで、根の先の歯根膜や顎の骨に炎症（膿瘍）を作ります。
この炎症が内部の圧力（内圧）を高め、歯根膜の神経を刺激するため、持続的な鈍痛や、噛んだ時の痛み、進行すると歯ぐきの腫れやニキビのようなできもの（フィステル）となって現れます。
根管内部で発生したガスや腐敗産物が根の先に圧力をかけたり、被せ物の中で悪臭を放ったりします。
慢性的な炎症として進行し、免疫力が低下したときに急激な痛みに変わることもあります。

痛み方の特徴
鈍く重い痛み、噛むと強く響く。
噛むとジンとする、歯が浮いたような違和感、口臭。

 

物理的な問題による痛み：歯の構造的なダメージが原因

感染症ではない、物理的な力が原因で痛みが起きるケースです。

 

ケース② 歯根破折（しこんはせつ）：縦のひび割れ

神経のない歯は、水分がなくなりもろくなっているため、強い噛む力や歯ぎしりによって、歯の根に縦にひびが入ったり、完全に割れたりする状態です。
破折線（ひび割れ）から細菌が侵入し、感染が急速に歯根膜全体に広がります。
また、噛むたびに破折した断片が動くため、歯根膜を刺激し、非常に鋭い激痛を引き起こします。
破折は予後が悪く、多くの場合、抜歯に至ります。

痛み方の特徴
非常に鋭い瞬間的な痛み、噛み合わせると激痛。

 

ケース③ 歯の割れ・欠け（クラック）：被せ物の下のトラブル

噛み合わせの力が強くかかることで、被せ物（クラウン）の下の歯の残りの部分や、歯の縁にひびが入ったり欠けたりする状態です。
ひび割れ（クラック）が進行すると、そこから細菌が根管に侵入しやすくなります。
また、欠けた部分が鋭利になり、舌や頬の粘膜を傷つける痛みを感じることもあります。

痛み方の特徴
鋭い痛み、食事中や冷たいものに触れた時のチクッとした痛み。

 

ケース④ 歯周病（歯槽骨の吸収）：周囲の骨の病気

失活歯自体の問題ではなく、歯の周囲を支える歯ぐきや骨が破壊される歯周病が原因で痛みが生じるケースです。
歯周病が進行し、歯槽骨が吸収されると、歯の根を支える土台が弱くなります。
この状態で噛む力がかかると、健康な歯よりもグラつきやすく、歯根膜に異常な負担がかかるため、「歯がグラグラする違和感」や「噛んだ時の痛み」が発生します。

痛み方の特徴
歯のグラつき、全体的な鈍痛、出血。

 

ケース⑤ 噛み合わせの異常（早期接触）：過剰な負荷

治療後に被せ物の高さがわずかに高かったり、歯ぎしりや食いしばりなどで特定の歯に過剰な噛む力がかかり続けている状態です。
常に強い力がかかることで、歯根膜が慢性的に炎症を起こし、歯が顎の骨から押し上げられたような「浮いた感覚」や「持続的な圧迫感」、そして噛んだ時の痛みが発生します。

痛み方の特徴
歯が浮くような違和感、朝起きたときの痛み。

 

その他の原因

ケース⑥ 隣接する歯や歯ぐきの問題

痛みの原因が、神経を抜いた歯ではなく、隣の健康な歯の虫歯、あるいは隣の歯ぐきの炎症（智歯周囲炎など）であることがあります。
痛みは神経を通じて伝わるため、脳が痛みの場所を正確に特定できず、隣の神経のない歯が痛いと錯覚してしまうことがあります（関連痛）。

 

ケース⑦ 上顎洞炎（副鼻腔炎）による痛み

上顎の奥歯（特に大臼歯）の根の先と、鼻の奥にある空洞（上顎洞）が非常に近い位置にあるため、副鼻腔炎（蓄膿症）の炎症が歯の根の先に影響を及ぼすケースです。
上顎洞で炎症が起き、膿が溜まって内圧が高まると、その圧力が奥歯の根の先端に伝わり、奥歯全体が「重い」「鈍い」ような痛みを感じます。

痛み方の特徴
複数の歯が同時に痛む、頭を下げると痛みが強くなる、鼻の症状を伴う。

 

神経のない歯の痛みの専門的な治療法

神経のない歯の痛みは、原因を特定することが非常に重要です。
自己判断せず、必ず歯科医院で精密な検査を受けてください。

 

1. 感染症が原因の場合の治療（ケース①、②）

根管治療のやり直し（再根管治療）
被せ物を外し、過去の根管治療の詰め物（根充材）をすべて除去し、根管内に残った細菌や感染源を徹底的に清掃・消毒します。
特に複雑に枝分かれした根管内の細菌を取り除くため、精密根管治療が成功率を高める鍵となります。

歯根端切除術（しこんたんせつじょじゅつ）
再根管治療では治癒が難しい、根の先の大きな病巣がある場合に行う外科的な処置です。
歯ぐきを切開し、根の先端と病巣を直接外科的に除去し、根の先端を封鎖することで、感染源を断ちます。

 

2. 物理的な問題が原因の場合の治療（ケース③、④、⑥）

歯根破折の場合（ケース③）
基本的に破折した歯は修復が難しく、抜歯が唯一の治療法となることが多いです。
破折の状態によっては、接着治療が試みられることもありますが、長期的な予後は厳しいとされています。

噛み合わせ・クラックの場合（ケース④、⑥）
被せ物の高さや形態を修正し、噛み合わせの調整を行います。
夜間の歯ぎしり・食いしばりによる過負荷が原因の場合は、ナイトガード（マウスピース）を作製し、歯や顎にかかる力を分散させます。

 

3. その他の原因の場合の連携治療（ケース⑤、⑦、⑧）

歯周病が原因の場合（ケース⑤）
歯周病治療を優先し、歯石除去（スケーリング・ルートプレーニング）で炎症を改善し、歯を支える土台を回復させます。

上顎洞炎が原因の場合（ケース⑧）
耳鼻咽喉科と連携し、副鼻腔炎の治療を行います。炎症が引けば、歯の痛みも自然に解消することが多いです。

 

まとめ：痛みを放置せず、精密検査を受けてください

神経のない歯の痛みは、「歯根膜」や「顎の骨」からのSOS信号であり、進行性の病気（感染や破折）を示している可能性が非常に高いです。
特に、噛んだ時の痛みや歯ぐきの腫れを伴う場合は、感染や破折が深刻化しているサインです。
神経がないからと痛みを放置すると、抜歯を避けられなくなるリスクが高まります。

ご自身の歯を守るため、神経を抜いた歯に少しでも違和感や痛みを感じたら、すぐに当院で精密な検査を受けてください。
マイクロスコープなどの専門機器を用いて原因を正確に特定し、大切な歯を守るための最善の治療をご提案いたします。