電子タバコなら大丈夫?インプラント・歯周病・矯正・ホワイトニング…治療効果への影響
2025/08/09

「歯医者さんで、タバコはやめた方がいいって言われたけど…電子タバコなら大丈夫かな?」
「インプラントの相談に行ったら、禁煙してくださいって言われてしまった…」
当院にも、歯科治療を始めるにあたり、喫煙について多くの方からご質問をいただきます。
特に近年、「加熱式タバコ」や「電子タバコ」の普及に伴い、「これなら紙巻きタバコとは違うから問題ないだろう」と考える方も少なくありません。
しかし、結論から申し上げますと、ほとんどの歯科治療において、タバコ(紙巻き、加熱式、電子タバコの種類を問わず)の喫煙は、治療の成功率を著しく低下させ、治癒を遅らせる、あるいは合併症のリスクを高める可能性があります。
このコラムでは、なぜ歯科治療中に禁煙が推奨されるのか、そして電子タバコを含めたいわゆる「新型タバコ」が口腔内にどのような影響を与えるのかを、科学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。
禁煙が特に強く推奨される歯科治療ケース
喫煙はすべての歯科治療において悪影響を及ぼす可能性がありますが、特に以下のケースでは、治療の成否に直結するため、厳格な禁煙が強く推奨されます。
1. インプラント治療

インプラント治療は、顎の骨に人工歯根を埋め込み、それが骨と結合することで機能する治療法です。
喫煙は、インプラントが骨と結合する骨結合(オッセオインテグレーション)を著しく阻害します。
血管収縮作用により、骨形成に必要な血流が不足し、インプラントが定着しない「インプラント周囲炎」のリスクも高まります。
そのため、インプラント手術の最低1〜2ヶ月前から禁煙を開始し、術後も数ヶ月〜半年、あるいはそれ以上の期間、禁煙を続けることが強く求められます。
手術が成功しインプラントが定着した後も、喫煙を続けるとインプラント周囲炎のリスクが高まり、インプラントの寿命を縮める原因となります。
2. 抜歯(特に親知らずの抜歯など)

抜歯後の傷口の治癒は、十分な血流と血餅の安定が不可欠です。
喫煙は、抜歯後にできる血餅(かさぶたのようなもの)が剥がれ落ちやすくする作用があります。
血餅が剥がれると、骨がむき出しになり、強い痛みと治癒の遅延を伴うドライソケットを引き起こします。
また、喫煙によって免疫機能が低下するため、抜歯後の傷口から細菌が侵入し、感染症を起こすリスクが高まります。
3. 歯周病治療(外科的処置を含む)

歯周病治療は、歯茎や歯を支える骨の健康を取り戻すことが目的です。
喫煙は、歯茎の血流を悪化させ、歯周組織の修復能力を低下させます。
これにより、スケーリングやルートプレーニングといった基本的な治療から、歯周外科手術(歯周組織再生療法など)に至るまで、あらゆる歯周病治療の効果を著しく低下させます。
また、治療後も喫煙を続けると、歯周病が再発しやすくなり、進行も早まります。
4. 矯正治療

矯正治療は、歯を少しずつ移動させて歯並びを整える治療です。
喫煙による血流悪化は、歯を移動させるために必要な骨のリモデリング(骨の吸収と形成)に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、喫煙者は非喫煙者に比べて口腔内の乾燥が進みやすく、プラーク(歯垢)や歯石が蓄積しやすいため、矯正装置装着中の虫歯や歯周病のリスクが高まります。
さらに喫煙は、矯正装置や歯の表面に着色を引き起こし、審美性を損なう可能性があります。
5. ホワイトニング・審美治療

歯を白くするホワイトニングや、セラミックなどの審美的な詰め物・被せ物を行う場合も、喫煙は大きな障壁となります。
具体的には、タバコの成分が歯の表面や修復物に付着し、本来の白さや透明感を損ないます。
ホワイトニングの効果を打ち消し、セラミックなどの変色の原因にもなります。
喫煙を続けると、せっかく行ったホワイトニングや審美治療の効果が長持ちしません。
6. 口腔がんのリスク上昇

喫煙は、口腔がんの主要な原因の一つです。
タバコに含まれる発がん性物質が口腔内の粘膜に直接触れることで、がん発生のリスクを高めます。
当院では、定期検診時に口腔がんの早期発見も視野に入れた診察を行います。
喫煙者は、非喫煙者に比べて口腔がんになるリスクが数倍から数十倍に跳ね上がると言われています。
「電子タバコなら大丈夫?」その疑問に明確にお答えします
近年、従来の紙巻きタバコに代わるものとして、「加熱式タバコ」や「電子タバコ」が急速に普及しています。
「煙が出ない」「ニオイが少ない」「タールが含まれていない」といった情報から、「これなら歯科治療中も大丈夫だろう」と考えている方も多いかもしれません。
しかし、歯科医師として、私たちは電子タバコであっても、歯科治療中の使用は推奨しません。
その理由を、それぞれのタバコの種類と比較しながら詳しく見ていきましょう。
「紙タバコ」「加熱式タバコ」「電子タバコ」の違いと歯科への影響
種類 | 概要 | 主な有害物質 | 歯科への影響(特に治療中) | 治療への影響度 |
---|---|---|---|---|
紙巻きタバコ |
タバコ葉を燃焼させて煙を吸い込む |
ニコチン、タール、一酸化炭素、発がん性物質など数千種類 |
血流悪化、治癒遅延、歯周病悪化、着色、口臭、口腔がんリスク増大。特にインプラント・抜歯に大影響。 |
極めて高い |
加熱式タバコ |
タバコ葉を加熱して蒸気を発生させる。燃焼ではない |
ニコチン、その他有害物質(紙巻きより少ないとされるがゼロではない) |
ニコチンによる血流悪化、治癒遅延、歯周病悪化。 タールは少ないが、着色や口臭のリスクも。 |
高い |
電子タバコ |
リキッド(液体)を加熱して蒸気(Vape)を発生させる。タバコ葉不使用。 |
ニコチン(含むもの)、プロピレングリコール、植物性グリセリン、香料、ホルムアルデヒド等 |
ニコチンによる血流悪化、治癒遅延、歯周病悪化。 リキッド成分の口腔内への影響(乾燥、炎症、着色)も懸念。 |
やや高い |
ニコチンフリーでも安心できない!リキッド成分の口腔内への影響

電子タバコには、ニコチンが含まれているものとニコチンが含まれていないものがあります。
と。日本では、ニコチン入りリキッドの製造・販売・譲渡は法律で禁止されているため、国内の実店舗では購入できません。海外からの個人輸入でのみ入手可能です。
ですが、たとえニコチンが含まれていないリキッドを使用している場合でも、電子タバコは口腔内に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。
口腔内の乾燥(ドライマウス)
電子タバコのリキッドに含まれるプロピレングリコールや植物性グリセリンといった成分には、吸湿性があります。
これにより、口腔内の水分が奪われ、唾液の分泌を抑制したり、蒸気自体が口腔内を乾燥させたりすることが指摘されています。
口腔内の乾燥(ドライマウス)は、唾液による自浄作用や抗菌作用が低下するため、細菌の繁殖を促し、虫歯や歯周病のリスクを顕著に高めます。また、口臭の原因にもなります。
歯茎や粘膜への刺激・炎症
特定の香料や添加物が、歯茎や口腔粘膜に直接的な刺激を与え、炎症を引き起こす可能性も報告されています。
これは、口腔内の微細な傷の治りを遅らせたり、新たな炎症の原因となることがあります。
歯の着色・汚れの付着
ニコチンフリーのリキッドであっても、含まれる香料の種類や、蒸気の成分によっては、歯の表面に着色を引き起こすことがあります。
また、リキッドのベタつきが、プラーク(歯垢)の付着を促進し、口腔内の衛生状態を悪化させる可能性も考えられます。
これは、ホワイトニングや審美治療の効果を損なうだけでなく、虫歯や歯周病のリスクを高めることにも繋がります。
口腔内細菌叢(マイクロバイオーム)への影響
電子タバコの使用が、口腔内の細菌のバランス(マイクロバイオーム)を崩し、特定の悪玉菌を増殖させる可能性も指摘されています。
これは、歯周病や虫歯のリスクを高める要因となります。
加熱による有害物質の生成
電子タバコはリキッドを加熱して蒸気を発生させますが、この加熱プロセスにおいて、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの有害物質が生成される可能性が指摘されています。
これらの物質は発がん性を持つこともあり、口腔内の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
長期的な影響の不明確さ
電子タバコは比較的新しい製品であり、その長期的な健康影響については、まだ十分な研究データが蓄積されていません。
しかし、「紙巻きタバコよりはマシ」という安易な考えは危険です。
現時点での知見だけでも、歯科治療への悪影響は十分に懸念されます。
歯科医師からのメッセージ:あなたの健康のために、今こそ禁煙を

「タバコをやめるのは難しい…」
そのお気持ち、よく分かります。
長年の習慣を変えることは、容易なことではありません。
しかし、喫煙が口腔内の健康、ひいては全身の健康に与える悪影響は、想像以上に大きいものです。
歯科治療は、患者様と私たち歯科医師が協力し合って初めて成功するものです。
せっかく時間とお金をかけて治療を受けていただくからには、最高の治療結果と、その後の長期的な健康維持を目指したいと、私たちは心から願っています。
「禁煙」は、あなたの歯科治療の成功、そしてこれから先の人生において、美味しく食事ができ、自信を持って笑顔でいられるための、非常に重要なステップです。
当院では、患者様が安心して禁煙に取り組めるよう、様々なサポートをご提供できます。
禁煙外来へのご紹介や、禁煙に関する情報提供など、お気軽にご相談ください。
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