歯のクリーニング後に歯ぐきが腫れるのは「失敗」?原因と対処法
2026/01/14
神保町野本歯科医院の院長、野本です。
せっかくお口を綺麗にするために歯科医院へ足を運んだのに、帰宅してから歯ぐきがジンジンと痛んだり、赤く腫れたりすると、やりきれない気持ちになるのも無理はありません。
「前より悪くなった気がする」と感じ、不信感を抱いてしまうこともあるでしょう。
歯科医師の立場から正直にお話しすると、歯ぐきが腫れるという反応は、実は「そこに溜まっていた大量の細菌や歯石をしっかりと除去できた証拠」である場合がほとんどです。
一方で、歯科医院側のミスや不手際が関係している可能性もゼロではありません。
なぜ綺麗にしたはずなのに腫れてしまうのか。そのメカニズムを正しく知ることで、今の不安を解消し、適切に対処できるようになります。
なぜクリーニング後に歯ぐきが腫れるのか?主な原因
クリーニング(スケーリングやルートプレーニング)は、歯ブラシでは届かない歯周ポケット内部の細菌(プラーク)や歯石を取り除く処置です。
腫れが起こるのには、医学的な理由があります。
慢性的な炎症が「急性化」した(好転反応)
これが最も多い原因です。
重度の歯石や汚れがたまっている歯ぐきは、常に細菌と戦っており、内部で「くすぶった炎症」が起きています。
クリーニングによって急激に細菌が除去されると、体が反応して血流を増やし、傷んだ組織を修復しようとします。
これはいわば「膿を出す」ようなプロセスであり、東洋医学でいうところの好転反応に近い状態です。
溜まっていた毒素(細菌の死骸や毒素)が一時的に周囲の組織を刺激することで、腫れや痛みとして現れます。
物理的な刺激による一時的な炎症
特に「黒い歯石(歯肉縁下歯石)」を除去する際は、この刺激が避けられません。
歯ぐきの奥深くにこびりついた硬い歯石を引き剥がすには、専用の器具(スケーラー)を歯周ポケットの深くまで挿入する必要があります。
ですが、どんなに熟練した歯科医師であっても、腫れている繊細な歯ぐきの内部を触れば、多少の擦り傷や刺激が生じます。
手術後の傷が一時的に腫れるのと同様、処置直後は組織がデリケートな状態になります。
歯ぐきの「引き締まり」による違和感
汚れが取れると、それまで腫れてブヨブヨしていた歯ぐきが、ギュッと引き締まろうとします。
この際、歯と歯の間の隙間が広がったように感じたり、歯ぐきが引っ張られるような違和感が「痛み」や「腫れ」として認識されることがあります。
「失敗」と言わざるを得ないケースとは?
多くの腫れは正常な反応ですが、中には歯科医院側のミスや不手際が関係している可能性もゼロではありません。
「歯科医院でのクリーニング」は、一見シンプルに見えて非常に繊細な技術を要する処置です。
特に、歯ぐきの奥深くにアプローチする際は、手元のわずかな狂いや判断の誤りが、患者さまの苦痛に直結します。
私たちがプロとして「これは不適切な処置だった」と判断する、具体的なケースを解説します。
歯石の「取り残し」による棘(とげ)現象
これが最も多い技術的失敗です。
大きな歯石をスケーラー(専用器具)で弾き飛ばす際、すべてを取りきれず、鋭利な破片が歯周ポケットの中に残ってしまうことがあります。
残った歯石の破片は、顕微鏡で見ると非常にギザギザしています。
これが「トゲ」となって、噛むたびに歯ぐきの内側の粘膜をチクチクと刺激し、強い炎症を引き起こします。
見分け方
クリーニングした箇所全体ではなく、「特定の1箇所だけ」がいつまでもジンジン痛む、あるいは2〜3日経ってから急に激しく腫れてきた場合は、この取り残しが疑われます。
「押し込み」による歯周膿瘍(ししゅうのうよう)
汚れを「取り除く」のではなく、誤って「押し込んでしまう」ケースです。
スケーラーを動かす方向や角度を誤ると、歯の表面に付着していた細菌の塊(プラーク)や細かい歯石を、歯周ポケットのさらに奥底へと押し込んでしまうことがあります。
奥底に閉じ込められた細菌が、逃げ場を失って急激に増殖します。
すると、体が防御反応として大量の膿を作り出し、「歯周膿瘍(ししゅうのうよう)」というパンパンに腫れ上がった状態を招きます。
見分け方
処置後1〜2日以内に、歯ぐきが丸くポコッと膨らみ、脈打つような痛み(拍動痛)が出た場合は、このケースの可能性が高いです。
オーバーインストゥルメンテーション(過剰な切削)
「綺麗にしよう」という意識が強すぎるあまり、やりすぎてしまう失敗です。
特に手動のスケーラーを使う際、必要以上の強い力で歯の根の表面(セメント質)を削り取ってしまうことを指します。
また、超音波スケーラーの出力を適切に調整せず、高すぎる振動で歯ぐきを叩き続けてしまうことも含まれます。
強すぎる力が加わると、歯ぐきが物理的に「挫滅(ざめつ=潰れること)」してしまいます。
深い擦り傷や打撲を負ったような状態になり、修復のために激しい腫れと痛みが生じます。
見分け方
クリーニングした直後から、歯ぐきが真っ赤、あるいは白っぽく変色し、食べ物が触れるだけで火傷のような痛みがある場合は、過剰な刺激による損傷が疑われます。
根分岐部(こんぶんきぶ)の判断ミス
歯の根っこが二股や三股に分かれている部分(奥歯など)の処置ミスです。
根の分岐部は構造が非常に複雑で、器具が届きにくい場所です。
ここに無理に器具を突っ込んだり、逆に中途半端に汚れをかき回したりすると、隠れていた細菌が活性化してしまいます。
もともと清掃が困難な場所であるため、刺激だけが加わり細菌が取りきれないと、急性炎症に発展しやすいのです。
見分け方
「奥歯の、歯と歯の間の深いところ」が特に腫れている場合、この部位の処置が不完全、あるいは過剰だった可能性があります。
診断不足による「火に油」現象
そもそもクリーニングをしてはいけないタイミング、あるいは別の原因があるのに強行してしまったケースです。
例えば、歯の根っこが割れている(歯根破折)のに気づかず、その周囲をクリーニングしてしまうと、割れ目に細菌を送り込む結果となり、炎症が爆発的に悪化します。
「歯ぐきの問題」ではなく「歯の内部の問題」が原因である場合、外側の掃除をすることで、本来休眠していた炎症を呼び起こしてしまうことがあります。
見分け方
クリーニング後に、歯ぐきだけでなく「歯そのもの」が浮いて噛めないほど痛む場合、隠れた破折や根の先の病気(根尖病変)を見逃していた「診断の不備」が考えられます。
「前は痛くなかったのに、今回は痛い」のはなぜ?
過去のクリーニングでは何ともなかったのに、今回だけ腫れたという場合、以下の理由が考えられます。
歯周病の進行
以前よりも歯周ポケットが深くなり、より深い位置にある「黒い歯石」を取ったため。
体調の影響
寝不足、疲れ、ストレスなどで免疫力が落ちていると、通常なら気にならない程度の刺激でも大きく腫れてしまうことがあります。
クリーニングの種類
表面の掃除(定期検診レベル)ではなく、根っこの掃除(歯周病治療レベル)を行った場合は、刺激が格段に強くなります。
クリーニング後トラブル・判別チャート
| チェック項目 | 正常な反応(好転反応) | 処置の不備・トラブルの疑い |
|---|---|---|
1.痛みのピーク |
処置当日〜翌日がピーク。 |
3日目以降に痛みが強くなる。 |
2. 痛みの種類 |
ジンジン、重だるい、しみる。 |
ズキズキ(拍動痛)、刺すような痛み。 |
3. 痛みの範囲 |
クリーニングした箇所全体。 |
特定の1箇所だけが激しく痛む。 |
4. 腫れの様子 |
全体的に赤っぽいが、徐々に引く。 |
局所的にポコッと膨らんでいる。 |
5. 膿(うみ) |
出ない。 |
押すと黄色い膿が出る。 |
6. 出血 |
歯磨き時に少し滲む(2〜3日で止まる)。 |
何もしていなくても血が止まらない。 |
7. 全身症状 |
なし。 |
発熱、倦怠感、顎の下のリンパの腫れ。 |
【詳しく解説】それぞれの判定基準について
このチャートをより深く理解し、適切な行動をとるための補足解説です。
1. 「時間経過」が最大の判断基準(72時間の法則)
歯科治療において、組織の炎症は通常48時間(2日)以内にピークを迎え、72時間(3日)経つと沈静化に向かいます。
正常
翌朝が一番痛く、夕方には少し楽になり、3日目には忘れている。
要注意
3日経っても痛みが変わらない、あるいは「右肩上がりで痛みが強くなっている」場合は、細菌の押し込み(歯周膿瘍)や歯石の取り残しが強く疑われます。
2. 「痛みの質」で見分ける
正常(鈍痛)
重だるいような痛みは、歯ぐきの血流が改善し、組織が修復されているサインです。
要注意(拍動痛)
心臓の鼓動に合わせて「ズキズキ」と痛むのは、内部で内圧が高まり、化膿が始まっているサインです。
これは「放置して治る」範囲を超えている可能性があります。
3. 「ピンポイントの痛み」か「全体の違和感」か
正常
掃除した範囲が全体的に「なんとなく腫れぼったい」のは、広範囲の汚れを取った際の標準的な反応です。
要注意
掃除したはずの数本の歯のうち、「この1箇所だけが、触れるだけで飛び上がるほど痛い」という場合は、その場所に鋭利な歯石の破片が残っているか、器具による物理的な過剰損傷の可能性があります。
4. 出血と膿(うみ)の違い
正常
歯ぐきが引き締まる過程で、溜まっていた「悪い血」が出ることがあります。
これは数日で自然に止まります。
要注意
ぷっくりと腫れた場所から黄色や白っぽいドロっとした液体(膿)が出る場合は、細菌感染が急性化しています。
早急な洗浄が必要です。
チャートの結果、どう行動すべきか?
「正常な反応」に当てはまる方
クリーニング後の歯ぐきは、いわば「開いた傷口」のような状態です。
2〜3日は以下の点に注意して過ごしましょう。
刺激を避ける(食事・嗜好品)
辛いもの、酸っぱいもの、熱すぎるもの
傷口を刺激し、痛みを増幅させます。
アルコール
血流が良くなりすぎると、ズキズキとした拍動性の痛みや出血の原因になります。
喫煙
血管を収縮させ、酸素供給を妨げるため、歯ぐきの治りが劇的に遅くなります。最も避けるべき行為です。
歯磨きは「優しく、丁寧に」
腫れているから磨かない、はNG
汚れが残ると細菌が繁殖し、炎症が長引きます。
柔らかめの歯ブラシを使い、力を入れずに「マッサージするような感覚」で磨いてください。
出血しても、優しく磨き続けることが早期回復の近道です。
冷やしすぎに注意
対頬の外側から濡れタオルで軽く冷やす程度は有効ですが、氷などでキンキンに冷やしすぎると血流が悪くなり、かえって治癒を遅らせることがあります。
市販の痛み止めを活用
痛みが強い場合は、ロキソニンやイブなどの市販の鎮痛剤を服用しても問題ありません。
「処置の不備・トラブルの疑い」に1つでも当てはまる方
我慢せずに、すぐに歯科医院へ連絡してください。
歯科医院側としても、処置後の経過が思わしくないことは、今後の治療計画(どれくらいのペースで掃除すべきか等)を立てる上で非常に重要な情報となります。
まとめ
クリーニングは「痛い思いをするためのもの」ではありません。
しかし、長年溜まった汚れを取り除く際には、どうしても体が「工事中」のような反応を示すことがあります。
もし、この記事中のチャートで「要注意」に当てはまり、不安な夜を過ごされているのであれば、どうぞ神保町野本歯科医院にご相談ください。
他院でのクリーニング後のトラブルであっても、適切な処置(再洗浄や消炎処置)を行います。
皆さまの「健康への努力」が、痛みという苦痛で終わらないよう、私たちは最後まで責任を持ってサポートいたします。
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