20代で重度の歯周病…それは、侵襲性歯周炎かもしれません
2025/11/14

神保町駅徒歩1分の歯医者、神保町野本歯科医院です。
当院に来院される患者様の中には、20代という若さで「歯がグラグラする」「歯ぐきがひどく腫れている」「口臭が気になる」といった重度の歯周病の症状を訴える方がいらっしゃいます。
多くの方が、こういった状態を「歯磨きをサボったせいだ」「もっと早く歯医者に行けばよかった」と自分を責め、「こんな状態を見せるのが恥ずかしい」という強い負い目を感じています。
しかし、もしあなたが20代で重度の歯周病に悩んでいるとしたら、それは、あなたのせいではないかもしれません。
一般的な歯周病とは異なる、「侵襲性歯周炎(しんしゅうせいししゅうえん)」という、進行が非常に速いタイプの歯周病である可能性があるのです。
この記事では、若くして歯周病が進行するメカニズムを解説し、あなたが抱える「恥ずかしさ」を払拭し、一歩踏み出して相談してみようと思っていただけるよう、具体的な情報をお伝えします。
「侵襲性歯周炎」とは何か?
通常の歯周病(慢性歯周炎)は、長年の不適切なケアによって、中高年になるにつれて徐々に進行していく病気です。
一方、「侵襲性歯周炎」は、若年者や比較的若いうちに発症し、進行が極めて速いのが特徴です。
以前は「若年性歯周炎」とも呼ばれていました。
なぜ若くして「侵襲性」に進行するのか?そのメカニズム

侵襲性歯周炎が若年者に急速に発症・進行する主な原因は、特定の強力な細菌と宿主(患者様自身)の免疫応答の組み合わせにあります。
特定の強力な細菌(主犯格)
特に強い毒性を持つ細菌(Aa菌)などが強く関与しています。
これらの細菌は非常に強力な毒素を出し、歯周組織や骨を直接的かつ急速に破壊します。
遺伝的・免疫的な関与
Aa菌自体は他の人にもいることがありますが、侵襲性歯周炎を発症する方は、その細菌に対する免疫細胞の反応が過剰であったり、逆に免疫細胞の機能に異常があったりすることが指摘されています。
つまり、遺伝的な体質により、細菌の攻撃に対して破壊的な炎症反応を起こしやすいのです。
進行の速さ
プラーク(歯垢)の量と骨破壊の程度が必ずしも一致しないのが特徴です。
つまり、一見歯磨きができているように見えても、細菌の毒性や過剰な炎症反応により、わずか数年で歯を支える骨(歯槽骨)が大きく失われてしまうのです。
侵襲性歯周炎と通常の歯周病の違い
侵襲性歯周炎と慢性歯周炎は、同じ「歯周病」という名前がついていますが、その発症メカニズムや進行の仕方は大きく異なります。
| 特徴 | 侵襲性歯周炎(若年性歯周炎) | 慢性歯周炎(通常の歯周病) |
|---|---|---|
|
主な発症年齢 |
若年者(10代後半~30代) |
中高年以降(40代以降) |
|
進行速度 |
極めて速い(急速に骨が破壊される) |
遅い~中程度(数十年かけて徐々に進行) |
|
プラーク量との関係 |
プラーク量と比較して、骨破壊が著しい |
プラーク(歯垢)の付着量と骨破壊の程度が比例する |
|
主な原因 |
特定の強力な細菌(Aa菌など)と宿主の遺伝的・免疫的な応答 |
慢性的なプラークの付着と、長期的な炎症 |
|
症状の現れ方 |
強い炎症がないのに、歯がグラつくなど、骨の破壊が先行する |
歯ぐきの腫れや出血、膿などの炎症症状が目立つ |
|
治療の難易度 |
難治性(通常の治療だけでは効果が出にくい) |
基本的な歯周治療で改善しやすい |
違いの核心:原因と免疫応答
最も大きな違いは、「プラークの量」と「体の反応」です。
慢性歯周炎
歯磨き不足などでプラークが多く溜まり、それに対して体が炎症を起こし、ゆっくりと骨が溶けていくのが特徴です。
原因(プラーク)を取り除けば、比較的早く炎症は収まります。
侵襲性歯周炎
プラークの量が少ないにもかかわらず、特定の強力な細菌が出す毒素や、それに対する体質の遺伝的な要因による過剰な免疫応答が原因となり、骨が急速に破壊されてしまいます。
つまり、「体質」が大きく関与しているため、一般的な歯磨きや治療だけでは進行を止めにくいのです。
侵襲性歯周炎の可能性を見分ける「3つのサイン」
歯科医院では、レントゲン写真や精密検査で判断しますが、ご自身や家族の状況から以下のサインが見られる場合は、侵襲性歯周炎の可能性が高いです。
サイン1:年齢の割に「限定的な重度の骨破壊」がある

侵襲性歯周炎は、特定の歯に重度の症状が現れる傾向があります。
レントゲンで、年齢が若いにもかかわらず、特に前歯(切歯)と第一大臼歯(奥歯の6番目の歯)に限定して、深刻な骨の破壊が見られる場合は侵襲性歯周炎が疑われます。
症状としては、歯ぐきがそれほど赤く腫れていないのに、歯周ポケットが深く、歯がグラグラしている、といった症状が現れます。
これは、炎症症状が少なくても、骨の破壊が進行している状態を示します。
サイン2:「家族歴」がある

侵襲性歯周炎は遺伝的な要因が強く、家族性に発症する傾向があります。
「両親や祖父母が若くして歯を失っている」「兄弟姉妹も歯周病の進行が早い」といった家族歴がある場合、強く侵襲性歯周炎が疑われます。
サイン3:「治療への反応が鈍い」

通常の歯周病治療を何度か受けたにもかかわらず、症状の改善が見られず、進行が止まらない場合。
慢性歯周炎であれば、徹底的な歯石除去(SRP)とブラッシング指導で劇的に改善しますが、侵襲性歯周炎は一般的な治療だけでは限界があるため、治療効果が上がらないことが診断の一つの目安となります。
20代で重度の歯周病になってしまったのは「頑張りが足りないから」ではない
繰り返しになりますが、あなたが若くして重度の歯周病になったのは、単に「歯磨きをサボった」とか「ケアを怠った」からだと決めつける必要はありません。
侵襲性歯周炎の患者様の中には、非常に丁寧に歯磨きをしているにもかかわらず、細菌の毒性とご自身の免疫システムの反応の組み合わせにより、急速に歯周組織が破壊されてしまう方がいるのです。
「私は特別な病気かもしれない」と理解することで、自分を責める気持ちを和らげ、「専門的な治療が必要だ」と前向きに捉えることができるはずです。
20代の患者様が抱える「恥ずかしさ」を払拭するために

歯科医院に来ることをためらう最大の理由の一つが、「こんなひどい状態を見せるのは恥ずかしい」という感情です。
特に20代で歯周病というと、「自己管理ができていない」と思われがちで、負い目を感じやすいでしょう。
しかし、ご安心ください。
私たちは、あなたの歯の状態を見て「だらしない」とか「ひどい」とは一切思いません。
私たちの関心は、「どうすればこの破壊の進行を止められるか」「いかにあなたの歯を守れるか」の一点に尽きます。
侵襲性歯周炎の可能性が高い患者様を見るたびに、私たちは「これは早く手を打たなければならない」「ご自身の努力ではどうにもならない要因がある」と、むしろ緊急性を感じています。
若いからこそ治療効果が大きい
歯周病の進行度は、年齢とともに増していきます。
逆に言えば、20代という若さで治療をスタートすれば、失った組織を完全に戻すのは難しくても、残っている歯周組織を活かして歯を守り、寿命を延ばせる可能性が非常に高いのです。
恥ずかしがって治療を遅らせることこそが、本当に「手遅れ」になる最大のリスクです。
侵襲性歯周炎の可能性が高い場合の具体的な診断と治療
侵襲性歯周炎の治療は、通常の歯周病とは異なり、より専門的なアプローチが必要です。
1. 診断のステップ

詳細な問診とレントゲン
家族の中に歯周病で歯を失った人がいないかなど、遺伝的な要素を含めて確認します。
レントゲンで、年齢の割に著しく進行した骨の破壊を確認します。
歯周組織検査
歯周ポケットの深さ、出血の有無などを精密に測定します。
特に限局型の症状パターンがないかを確認します。
細菌検査
侵襲性歯周炎の原因となる特定の細菌(Aa菌など)が存在するかどうかを特定するために、PCR法などを用いた細菌検査を行うことがあります。
2. 治療の具体的なアプローチ(集学的治療)

侵襲性歯周炎の治療は、細菌を徹底的に除去する機械的な治療と、強力な細菌に対抗するための薬物療法を組み合わせるのが一般的です。
集中的な初期治療
通常の歯石除去に加え、深い歯周ポケットの奥の歯石や感染源を徹底的に除去します(ルートプレーニング)。
抗生物質の併用
原因菌が特定された場合、その細菌を全身から叩くために、抗生物質を服用してもらいます。
これにより、通常の治療では到達しにくい組織内の細菌も除去し、治療効果を飛躍的に高めます。
外科的治療と再生療法
深いポケットや複雑な骨の破壊がある場合、歯周外科手術を行い、直接目で見ながら感染源を除去します。
破壊された骨や組織の再生を促す処置(歯周組織再生療法)を積極的に適用することも、若い患者様の歯の延命には重要です。
長期的なメンテナンス
侵襲性歯周炎は再発リスクが非常に高いため、治療が終了しても、3ヶ月に一度など、短期的な間隔での専門的なクリーニングとチェックが不可欠です。
歯を諦めないでください。今が最大のチャンスです。
「もうダメかもしれない」
そう思ってこのコラムを読んでいるかもしれません。
しかし、20代という若さでご自身の歯周病に気づき、この記事を読んでいるあなたは、非常に幸運です。
なぜなら、破壊の進行を止める最大のチャンスをまだ手に入れているからです。
侵襲性歯周炎は、通常の努力だけでは太刀打ちできない病気です。
だからこそ、私たち歯科医師の専門的な治療とあなたの協力が必要です。
恥ずかしさは捨ててください。私たちはあなたの味方です。
一歩踏み出す勇気さえあれば、あなたの歯の未来は大きく変わります。
どうぞ、お一人で悩まずに、私たちにご相談ください。
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