【人工関節の手術】手術前に「歯医者に行って」と言われるのは何故?放置すると怖い合併症
2025/09/23

こんにちは。神保町駅徒歩1分の歯医者、神保町野本歯科医院です。
「膝が痛くて、いよいよ人工関節の手術が決まった!」
そんな時、病院から「手術の前に歯科を受診してください」と言われて、驚かれた経験はありませんか?
「なぜ、膝の手術と歯が関係あるの?」
そう思われるのも無理はありません。
しかし、この一見関係なさそうな指示には、手術を成功させ、術後の合併症を防ぐための、非常に重要な理由があるのです。
実は、人工関節の手術に限らず、心臓や脳血管、がんの手術など、全身麻酔を伴う大きな手術の多くで、術前に歯科治療や口腔ケアが推奨されています。
この記事では、特に人工関節置換術を例に、なぜ手術前に歯科治療が必要なのか、放置するとどんなリスクがあるのか、そしてどのような治療やケアが必要になるのかについて、患者さんの心に寄り添いながら、詳しく解説していきます。
なぜ、膝の手術前に歯科受診が必要なのか?

結論から申し上げますと、「お口の中の細菌が、手術した部位に感染するのを防ぐため」です。
私たちの口の中には、数百種類、数十億個もの細菌が住み着いています。
普段は、唾液の自浄作用や免疫力によって、これらの細菌は悪さをしません。
しかし、以下のような状態になると、細菌は血流に乗って全身を巡り、手術した部位(特に人工関節)にたどり着き、深刻な感染症を引き起こすリスクが高まるのです。
歯周病が進行している
重度の虫歯がある
抜かなければならない歯がある
根の先に膿が溜まっている
膝の手術では、人工関節という「異物」が体内に埋め込まれます。
この人工関節は、通常の組織よりも細菌が付着しやすく、一度感染が起きると非常に治りにくいのが特徴です。
これを「人工関節周囲感染症(PJI)」と呼びます。
放置するとこんなに怖い!「人工関節周囲感染症(PJI)」のリスク

人工関節周囲感染症(PJI)は、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させる、非常に深刻な合併症です。
再手術が必要になる
抗生物質の長期投与が必要になる
最悪の場合、人工関節の除去や、患部の切断に至ることもある
PJIは、手術直後に発症する「早期感染」と、数年後、ときには10年以上経ってから発症する「後期感染」に分けられます。
早期感染は、手術時の不十分な感染対策などが原因となることが多いですが、後期感染の原因の一つに、「口腔内の細菌が血流に乗って運ばれること」が挙げられます。
つまり、手術後、何年も経ってから、「歯周病」が原因で人工関節が感染してしまう可能性があるということです。
「まさか、歯のせいで…」
そう思われるかもしれませんが、実際に多くの研究で、歯周病菌と人工関節周囲感染症との関連性が指摘されています。
膝の手術前に特に注意すべき4つの口腔トラブル
では、具体的にどのような口腔トラブルが、手術の成功を阻害し、感染症のリスクを高めるのでしょうか。
重度の歯周病

歯周病は、歯と歯ぐきの間の「歯周ポケット」に細菌が溜まり、歯ぐきが炎症を起こす病気です。
初期にはほとんど自覚症状がないため、ご自身でも気づかないうちに進行していることが少なくありません。
歯周病が進行すると、歯ぐきが腫れたり、歯磨きで出血したりするようになります。
この出血した部分から、歯周病菌やその毒素が血管の中に入り込み、血液に乗って全身を巡るようになります。
手術中は、身体にメスを入れることで、通常では感染しないような場所にも細菌が侵入しやすい状態になります。
また、手術後は免疫力が一時的に低下するため、全身に運ばれた歯周病菌が、人工関節などの手術部位に付着し、炎症や感染を引き起こすリスクが非常に高くなるのです。
手術前には、歯周病の状態を精密に検査し、歯石除去や歯周ポケットの清掃など、徹底的なクリーニングを行い、口腔内を清潔な状態にしておくことが不可欠です。これにより、血液中に細菌が入り込むリスクを最小限に抑えます。
重度の虫歯

「虫歯くらいで…」と思われるかもしれませんが、穴が開くほど進行した重度の虫歯は、細菌の温床です。
特に、虫歯が歯の神経まで達してしまうと、歯の根の内部が細菌に感染し、これが全身への感染経路となるリスクをはらんでいます。
見た目にはそれほどひどく見えなくても、深い虫歯は神経の炎症や壊死を引き起こしている可能性があり、慢性的な感染源となりかねません。
このような歯は、手術前に神経の治療(根管治療)を完了させるか、状態によっては抜歯をして、細菌の元を断つ必要があります。
根管治療は複数回の通院が必要になることが多いため、早めの受診が重要です。
根の先に膿が溜まっている歯(根尖性歯周炎)

過去に神経の治療をした歯の根の先に、膿の袋(膿瘍)が溜まっているケースも珍しくありません。
これは「根尖性歯周炎」と呼ばれ、レントゲンを撮ると、歯の根の先端に黒い影として映ることが多いです。
この状態は、普段は自覚症状がないことも多いため、ご自身で気づくことはほとんどありません。
しかし、これは「時限爆弾」のようなもので、身体の抵抗力が落ちた際(例えば、手術後)に、急激に炎症が再燃し、全身に細菌が広がるリスクがあります。
このタイプの感染源は、手術前に再治療で膿を取り除くか、もしくは抜歯をしなければ、安全に手術に臨むことができません。
放置してしまうと、手術後になって急な痛みや腫れを引き起こし、全身の健康状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
抜かなければならない歯

歯周病が末期的に進行してグラグラになっている歯、虫歯で歯のほとんどが崩壊している歯、炎症を繰り返している親知らずなどは、もはや「感染源」以外の何物でもありません。
これらの歯は、保存する努力をしても、かえって感染リスクを高めることになります。
そのため、手術を安全に行うためには、事前に抜歯しておくことが原則となります。
抜歯後も、傷口が治るまでに時間がかかります。
抜歯した部位から新たな感染が起きないよう、手術までに十分な治癒期間を確保することが不可欠です。
治療期間を考慮した「計画的な歯科受診」のすすめ

「手術まで時間がないのに…」
そう焦る気持ちはよく分かります。
しかし、手術前の歯科治療は、決して急いで適当に終わらせていいものではありません。
例えば、根管治療や抜歯には、ある程度の期間が必要です。
特に、膿が溜まっている状態や、炎症がひどい場合には、複数回の通院が必要になることも珍しくありません。
そのため、病院から「歯科受診を」と言われたら、できるだけ早く歯科医院を受診することが大切です。
当院が大切にしていること
当院では、患者さんの手術の日程に合わせて、歯科治療の計画を立てることを心がけています。
手術までの期間が短い場合
応急処置を優先し、感染源を排除するための最低限の治療を行います。
手術までに余裕がある場合
口腔内全体を詳しく検査し、手術後も長く健康な状態を保てるような包括的な治療計画を立てます。
治療だけではない!手術前の「口腔ケア」の重要性

手術前に必要なのは、治療だけではありません。「口腔ケア」も非常に重要です。
手術前後は、全身の抵抗力が落ち、唾液の分泌も減少しやすいため、お口の中が汚れやすくなります。
手術後は、痛みや点滴の影響で歯磨きが十分にできないことがある
入院中の食事が柔らかいものに偏り、歯に汚れがつきやすくなる
抗生物質の服用で、口の中の細菌のバランスが崩れ、カビ(カンジダ)が発生することがある
これらの状態を防ぐためには、手術前に歯科医院で専門的なクリーニングを受け、日々の歯磨きの方法を指導してもらうことが非常に効果的です。
当院では、担当の歯科衛生士が、患者さん一人ひとりに合わせたブラッシング指導や、歯間ブラシ、デンタルフロスの使い方を丁寧にレクチャーします。
また、手術後も継続してできるような口腔ケアの方法についてもお伝えしています。
安心して手術に臨むために、まずはご相談ください

「歯の治療を後回しにしていたけど、今からでも間に合うかな…」
「膝が痛くて、歯科医院に通うのがつらい…」
そうしたお悩みをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
当院では、患者さんの身体的な負担を最小限に抑えながら、安全かつ迅速に治療を進めるための体制を整えています。
車椅子での来院も可能です
手術を控えていることを考慮し、痛みや不安に配慮した治療を心がけています
病院と連携を取りながら、スムーズな治療を進めます
人工関節置換術は、膝の痛みを解消し、再び元気に歩けるようになるための、素晴らしい手術です。
その成功を確実なものにするために、手術前の歯科治療は欠かせません。
決して「ただのルーティン」と軽視せず、ご自身の未来のために、ぜひ前向きに捉えていただきたいと思います。
もし、ご自身の口腔内の状態に不安がある方、病院から「歯科受診を」と言われた方は、お一人で悩まずに、まずは当院にご相談ください。
丁寧なカウンセリングを通じて、患者さんの不安を取り除き、安心して手術に臨めるよう、精一杯サポートさせていただきます。
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